造船業界と海運業界における(DX)の成功事例

1. 国内の成功事例

① 造船業界:常石造船の3D設計とデジタル協業

  • 技術の活用
    船の設計段階で3Dモデルを活用し、複雑な配管や構造をタブレット上で可視化。作業員が誤りを減らし、工数削減を実現。
  • 成果
    設計時間の短縮や海外拠点とのリアルタイム協業が可能に。次世代エネルギーの研究開発にリソースを集中できるようになりました。

② 海運業界:商船三井の無人運航船とARナビゲーション

  • 技術の活用
  • 無人運航船:AIとセンサー技術で自動航行を実現。2022年には北海道~茨城間の長距離航行に成功。
  • ARナビゲーション:船舶の前方映像に航路や他船情報を重ね表示し、悪天候下でも安全な操船を支援。
  • 成果
    船員不足の解消やヒューマンエラーの削減に貢献。さらに、燃料効率の向上でCO2排出量も削減しています。

③ 造船業界:今治造船の物流デジタル化

  • 技術の活用
    工場内の物流をデジタル化し、資材の移動計画をAIで最適化。半自動で物流計画を作成するシステムを開発。
  • 成果
    現場作業の負担軽減と生産スケジュールの精度向上により、工期短縮とコスト削減を実現。

2. 海外の成功事例

① 海運業界:マースク(デンマーク)のブロックチェーン活用

  • 技術の活用
    「TradeLens」というブロックチェーン基盤で、荷主・船社・港湾が同じデータを共有。書類作業を電子化。
  • 成果
    通関時間の短縮(最大40%削減)や偽造防止に成功。国際物流の透明性が大幅に向上しました。

② 海運業界:CMA CGM(フランス)のスマートコンテナ

  • 技術の活用
    IoTセンサーを搭載したコンテナで、温度や湿度をリアルタイム監視。異常があればアラートを発信。
  • 成果
    生鮮食品や医薬品の品質維持に貢献。保険費用の削減や顧客満足度の向上を実現。

③ 造船業界:韓国造船海洋(KSOE)のXR技術

  • 技術の活用
    AR/VRを活用した船舶設計プラットフォームを開発。遠隔地のエンジニアが仮想空間で協業。
  • 成果
    設計期間の短縮とコスト削減。災害防止シミュレーションで作業員の安全性も向上。

3. DXの共通ポイントと未来への影響

① 技術の共通点

  • 3Dモデリング:設計ミスの防止や作業効率化。
  • IoTとAI:リアルタイムデータ分析によるメンテナンス最適化。
  • 自動化:無人運航やロボットによる荷役作業で人手不足を解消。

② 社会への影響

  • 環境面:燃料効率の向上やCO2削減で持続可能な社会に貢献。
  • 安全面:AR/VRトレーニングで事故リスクを低減。
  • 経済面:国際競争力の強化と新たなビジネスモデルの創出。
目次

海外事例を深堀してみましょう

海運業界:マースク(デンマーク)のブロックチェーン活用

以下は、デンマークの海運大手マースク(A.P. Moller-Maersk)のブロックチェーン活用事例を解説します。


1. 背景と課題:海運業界の非効率性

海運業界は年間4兆ドル規模の市場を支えるが、以下の課題を抱えていた:

  • 書類作業の煩雑さ:輸送には30以上の企業が関与し、200件以上の情報交換が必要。
  • 透明性の欠如:荷主は貨物のリアルタイム追跡が困難で、到着遅延やコスト増の原因に。
  • 環境負荷:物流全体のCO2排出量の3割を占め、脱炭素化が急務。

マースクはこれらの課題を解決するため、IBMと2016年からブロックチェーン技術の共同開発を開始し、2018年に合弁企業を設立。


2. ブロックチェーン基盤プラットフォーム「TradeLens」

技術的特徴

  • 分散型台帳:荷主・船社・港湾・税関などサプライチェーン全体のデータを共有し、改ざん不可能な記録を実現。
  • スマートコントラクト:契約プロセスを自動化し、手作業によるエラーを削減。
  • API連携:企業の既存システム(ERPなど)とシームレスに連携し、リアルタイムデータを活用。

主な機能

  1. 貨物追跡:韓国の食品企業Highland Foodsは、輸送中の貨物位置をリアルタイムで把握し、倉庫管理を最適化。
  2. 書類電子化:船荷証券や通関書類をデジタル化し、処理時間を最大40%短縮。
  3. コールドチェーン管理:医薬品や食品の温度監査データを記録し、品質保証を強化。

3. 導入成果とビジネスインパクト

効率化とコスト削減

  • 米ウォルマートでは食品のトレース時間を26時間→数秒に短縮。
  • 書類作業の電子化により、1回の輸送で100人以上の人的リソースを削減。

透明性の向上

  • 参加企業間でデータを共有し、荷物の紛失リスクを低減。例えば、偽造防止により保険費用を15%削減。

環境への貢献

  • サプライチェーンの最適化により燃料効率を向上させ、CO2排出量削減に寄与。
  • 持続可能な燃料開発(メタノール船など)と連動し、2030年までに100万トンのCO2削減を計画。

4. 課題と戦略的対応

業界横断的な協業の難しさ

  • 競合他社の参加が進まず、プラットフォームの普及に時間を要した。
  • 解決策:オープンな業界標準を推進し、税関当局や港湾企業を早期に巻き込み。

データ入力の信頼性

  • ブロックチェーン自体は改ざン耐性があるが、入力段階の不正リスクが指摘。
  • 解決策:IoTセンサーと連携し、自動データ収集で人的介入を排除。

5. 未来展望:サプライチェーンの再定義

  • デジタルツイン技術:仮想空間で輸送シナリオをシミュレーションし、リスクを事前予測。
  • カーボンニュートラル連携:ブロックチェーンでCO2排出量を可視化し、脱炭素燃料のサプライチェーンを構築。
  • 業界の民主化:中小企業がグローバル貿易に参画しやすくなる「デジタル貿易回廊」を構想。

総括:ブロックチェーンがもたらした変革の本質

マースクの事例は、単なる技術導入ではなく「サプライチェーンの信頼基盤の再構築」を示す。ブロックチェーンが実現した透明性・効率性・持続可能性の三位一体は、海運業界のDXのモデルケースとして、他業界にも影響を与えている。

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